経営者保証GLによる債務整理

1.「経営者保証に関するガイドライン」とは

(1)法律ではないが実質的な拘束力がある

「経営者保証に関するガイドライン(以下「経営者保証GL」という)」は、2013年12月5日に制定されました。といっても法律ではありません。
中小企業における経営者の個人保証のあり方について、行政当局の関与のもと、日本商工会議所と全国銀行協会が研究会を設置し、自主的なルールとして定められたものです。

ただ、この研究会のメンバーには、金融庁や最高裁判所も含まれているので、実質的な拘束力があるものとして運用されています。

(2)経営者の適切な債務整理のために

これまで金融機関が中小企業に融資するとき、一律に経営者やその親族を連帯保証人にとってきました。
しかしこれでは、会社を清算しようとしたとき、親族に迷惑をかけることを恐れ、経営者は債務整理に躊躇することになってしまいます。

そこで、経営者保証に依存しない融資のあり方を検討するとともに、経営者が保証人となっている場合には、過酷な取り立てを防止し、合理的な返済計画があれば真摯に検討するよう、金融機関に求めることになりました。
そのためのガイドラインです。

(3)自己破産よりも多くの資産を残す

再生の現場では、かつて「自己破産に準じた処理」とも言われていましたが、実際には自己破産の場合よりも多くのインセンティブ資産を残してもらえる場合が多いと思います。

保証人が会社を自己破産で清算するよりも、早期に事業譲渡を選択するなどできるため、結果的に金融機関が受ける配当が増加することも期待できます。

2. ガイドラインの適用対象と要件

保証人であれば誰でもこの経営者保証GLが適用されるわけではなく、一応の前提条件があります。
ただ基本的には「誠実な債務者」であることが前提ですので、そのための要件が具体的に定められています。

① 主債務者と保証人

主債務者である会社が中小企業であり、保証人がその経営者であること。

② 主債務者の債務整理手続き

会社が主債務者として、自己破産ないし特別清算手続き等の債務整理手続きを行い、弁済について誠実であること。

③ 保証人に破産法上の免責不許可事由がなく、反社会的勢力でもないこと

保証人に現段階で破産法上の免責不許可事由がなく、その恐れもないこと。
また、いわゆる反社会的勢力ではなく、その恐れも認められないこと。

④ 保証人の私財提供

保証人が私財提供を行うなど弁済について誠実であり、債権者からの請求に応じその資産状況を適切に開示していること。

3. ガイドラインを利用した2つの債務整理方法

(1)主債務者と保証人を同時に整理する「一体型」

主債務者である会社をスポンサーに事業譲渡するなどして、単に会社を清算するよりも、債権者に大きな配当を実現できる場合、その差額を限度として保証人にインセンティブ資産を残すことができます。
例えば、破産による清算では債権者への配当がゼロになるのに、事業譲渡+特別清算の一体型によって、1億円程度の配当が可能となる場合であれば、理論上インセンティブ資産の上限は1億円となります。

ただ、現実にはこのような大きな財産を残せるわけではありません。
私的整理において、破産の場合を圧倒的に上回る配当が実現できる場合に、破産した場合より少しだけ多くの個人資産を残せるのが一般的です。

(2)保証人の債務のみ整理する「単独型」

主債務者である会社の債務整理とは別に、保証人の債務整理を経営者保証GLによって申し立てる場合です。
通常、会社については、自己破産手続きが採用される場合が多いと思いますが、民事再生手続きでも可能です。

この場合、主債務者である会社の債務整理手続きが裁判所で継続中であっても、インセンティブ資産を残すハードルが高くなりますので、「一体型」と同じ程度の財産を残すことは困難です。
主債務者である会社の破産・再生手続きがすでに終了している場合は、インセンティブ資産は原則として認められていませんので、注意が必要です。

4.「一体型」において保証人が残せる個人資産

(1)破産法上の自由財産

「自由財産の拡張申立」を行えば、破産の場合であっても現金等99万円までは個人資産を残すことができます。1カ月あたり33万円、3カ月分の生活費相当額です。
これは破産した場合でも認められる財産ですから、問題なく認められることが多い資産です。

(2)一定期間の生計費

保証人の年齢によって異なりますが、雇用保険の給付期間に応じて、99万円~363万円の範囲で生計費が認められています。
これは当然に認められると言うよりは、保証人の年齢、収入を勘案して、その経済的更生にとって必要であると判断される場合に認められるものです。

(3)華美でない自宅

破産の場合は、自宅や土地建物の名義をそのままにすることは不可能ですが、経営者保証GLでは「華美でない」という条件付きとはいえ、自宅を残せる可能性があります。
ただし、自宅や土地建物に住宅ローンが残っている場合、住宅ローンはないが主債務者である会社の借入の担保になっている場合、無担保の場合で、それぞれ取扱が異なります。

また「華美でない」という表現は非常にあいまいです。破産の場合に比べてより多くの配当が可能になる場合に、その比率に従って、大きな自宅でも認められる傾向があると思います。

(4)個別事情によって残存を希望する資産

そのほか保証人の個別事情によって、インセンティブ資産として認められるものがあります。
例えば、保証人が持病をもっていて、現在加入している保険を解約すると二度と保険加入ができないなどの事情がある場合は、その保険に解約返戻金があるとしても、残存資産として認められる可能性があります。

5. ガイドラインを利用した場合のメリット・デメリット

(1)メリット

主債務者である会社の私的整理と同時に、保証人の債務整理を経営者保証GLで行えば、破産に比べて多くの財産が残せる可能性があります(「一体型」の場合)。
私の経験では、少しでも資金に余裕がある段階で会社を譲渡するなどして、金融機関に多くの配当を確保した場合は、比較的緩やかに残存資産が認められます。

ただ、ぎりぎりまで会社を継続して、破産と比べても配当があまり変わらない場合は、金融機関の対応は厳しいものがあります。

(2)デメリット

法律ではなく、あくまでガイドラインに過ぎないことです。基本的には、金融機関に丁寧に説明をして、理解してもらうしかありません。保証人が弁済について誠実かどうか次第だと思います。

「一体型」の場合は、様々なインセンティブ資産が認められますが、主債務者である会社が破産して、その後の手続きが終了してから保証人の債務整理を求める場合には、自由財産以外のインセンティブ資産は原則として認められていませんので、注意が必要です。

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